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アニメやラノベの感想とたまに備忘録

メガロボクス 感想

「前に五、後ろに五」この作品の中で繰り返されたこの言葉がこの作品の中核となるものだったと気づいたのが12話目だった。

 

あしたのジョー」のリブート作品ということと、キービジュアルからなにやらメカをつけて戦うらしい。という程度の情報しかもっていなかった自分としてはこの作品に対して期待は全くなかった。

まぁ、軽く様子だけ見ようかな?と思って見た1話はそこまで悪い物でもないかなぐらいの印象だった。そもそも主人公の名前が「ジャンクドック」でしかもアフロという「あしたのジョー」の要素が丹下段平ぽいセコンドのおっさんだけ。逆にどうやってあしたのジョーにつなげていくんだと気になることばかりだった。

自分がこの作品にのめり込むきっかけとなったのは3,4話だ。

3話の途中の展開でピーキーな試作機を使って新型をガンガン倒すみたいな展開を予想していたのに、最後はその試作機ギアも壊れてしまう。そして、生身のままでギアを使った敵を倒してしまう。それを見た贋作が「これだー!」と喜ぶ。この一連の展開で「その手があったか!」と膝から崩れ落ちてしまった。

そして4話で「ギアレスジョー」としての戦いが幕を開けた。4話がすごいと感じるのは恐怖の描き方だ。相手はギアをつけていてパンチ力がジョーよりも上である。しかし、ジョーはギアをつけていないので相手よりも多くパンチを入れなければ勝つことはできない。

そんな中で恐怖を覚えないわけもなくジョーは動きが若干鈍ってしまう。そして、ガードの上からだが強烈なパンチをもらってしまいダウンしてしまった。そこからはジョーの動きが精彩を欠いたものとなってしまう。この恐怖の描き方がとてもリアルであると同時にこの作品の主人公であるジョーは恐怖すら感じないスーパーヒーローではなく、ただの人間であることが示されているようでとても嬉しかった。

その後も南部の昔の教え子であるアラガキ、白都の後継者争いに敗れた白都樹生と素晴らしいエピソードが続いた。特にVS樹生は一度は不戦敗になるものの贋作ではなくジョーの活躍によって試合をする権利をゆき子から得た第8話はボクシングシーンがなくてもキャラクターの動きだけで充分に面白いと思える素晴らしい回だった。

そして、盛り上がりとしては最高潮を迎える10話、11話が始まった。

再びイカサマをやることとなったジョーは地下で使用していたぼろぼろのギアをつけてリングに臨む。それは「ギアレスジョー」としてではなく「ジャンクドック」としてリングに上がるという彼の意思表示だったのだろう。

そして、何回も繰り返し名シーンとしてゴールデンタイムの名作アニメべスト100みたいな特番で放送されたあの言葉が贋作から放たれる。

「立て、立つんだジョー

この言葉をきっかけにジョーは息を吹き返し、逆転勝利をつかみ取る。

「誰にもお前のあしたを奪わせはしねぇ」これはあのセリフの後に贋作が続けた言葉である。藤巻から刺さずにはいられない蠍と嘲られていた贋作はこのとき過去の自分と決別したのだろう。その結果として残っていた目を失うことになってしまったが。

このときに難しいのは藤巻である。彼は贋作を追い込んだが、目を差し出した贋作を手打ちにしたのも彼である。そして、贋作に対して最後に「笑わせるぜ」とまったく愉快ではなさそうにかみしめるようにつぶやいた。

浅はかな私見ではあるが、藤巻はほんの少しだけ贋作に対して嫉妬していたのではないだろうかと思った。藤巻は贋作に対して何度も「あんたの本性は蠍だ」と言い放つ。藤巻の動きをみていると単なるビジネスの一部として贋作やジョーを見ていたとは思えない。ただ、裏の世界の大物として振る舞う必要のある藤巻は贋作を贔屓するようなマネはできなかったのだろう。だから、目玉という代償を払った贋作を許したと同時に本性から解き放たれた贋作を羨ましく思った部分もあったのかもしれないと感じた。

12話ではユーリによる一体型ギアの剥離を「あしたのジョー」の力石の減量をほうふつとさせる演出で見せてくれた。ここまできてギアVS生身の構図を覆してきて勝敗を超えた部分のドラマに持っていくのかと体が震えた。そして、そのことによって「前に五、後ろに五」の意味に気づかされることとなった。この物語が到達しようとしているのは単純に勝利によって「あした」をつかむなんて次元ではなく、勝ちも負けも糧として「あした」を掴み取るというただ言葉にしただけでは陳腐なテーマを全力をこめて描こうとしていることに気づかされました。

そして、最終回13話では多くの時間を割いて決勝戦のその後が描かれる。

戦いそのものは魅力的であっても勝敗がほとんど意味を持たないこの展開では納得のいく時間の使い方であった。

そして、ジョーもユーリも幸福な「あした」をつかめていることがとてもうれしかった。

原作である「あしたのジョー」では力石は死んでしまい、ジョーも最後には真っ白に燃え尽きてしまう。原作では描かれなかった「あした」を描くというのもこの作品が単なるリメイクではなくリブートだからこそできたのだろう。

2018年に「あしたのジョー」をよみがえらせるという難題を見事に成し遂げた最高の作品でした。