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アニメやラノベの感想とたまに備忘録

アイカツフレンズ第23話「叫ぶ、瞬間」感想

脚本・絵コンテ・演出 京極尚彦が唸る!

 

アイドルは天気を動かす!なド根性スポ根をコメディも交えて走り抜ける、濃い30分だった。

1話まるごと鬼才に捧げるという感じで常に作画が良くて、京極尚彦の切れ味鋭い絵コンテと演出でいつも以上にキャラクターが輝いていた。

今までのアイカツシリーズでは寮生活だったので、家族をメインで1本というのは主人公キャラくらいしかなかったのだけど、あいねに続くのが舞花というのは意外だった。

しかも、ボクシングジムを経営して父親の声が諏訪部さんって!舞花の家族が濃すぎて1話だけだとあまりにも惜しいので今後もたまに出てほしい。

 

ブリリアントフレンズカップへの出場権を逃して落ち込むというBGM無しの入りから、ノアさんからの厳しいお言葉と雨や曇りの背景など、重めの画面と展開が続くが親父さんの天丼親ばかとエマのおかげでそこまでストレスを感じないようになっている。

そして、Aパートのラストではじめてちゃんと喋る寡黙だが妹思いのお兄ちゃん(CV:小野賢章)の一言で大好きな「フェス」の花形バードガールに挑む!という脈絡がないけどパワーを感じる展開がヤバかった。

Bパートは雨天のバードガールフェスから始まるのだけど、町中の人が良くわからない鶏カッパを着てる絵面がなんかスゴイ。

雨天のなか飛ぶタイミングをまって固くなる舞花を元気づけるために変顔するエマになんかもう涙が出てしまった。そこから始まった「おけまる」のステージは舞花のカットインも相まってまさに応援歌という感じが出ていて最高だった。そして、最高潮に達したかと思われたテンションで追い打ちをかけるように舞花の「Girls be ambitious !」で昇天した。

 

飛んで、走って、ライブという「アイドルの体力は無限なんだよ!」と言わんばかりのリアルを無視した展開は逆に気持ちよかった。いや、リアルを無視した展開でも気持ちよくなれるくらい「絵」の力強さがあったというべきかもしれない。

 

今回は敗北を喫した「ハニーキャット」の物語でもあったわけだけど、そんな2人が輝くのは別の勝負ではなく、仕事ですらない舞花の原点の1つであろう「フェス」というのがとても素敵に感じた。敗北を勝利によって上書きするのではなく、勝敗とは全く別の場所で敗北の影を払拭するというのはスポ根の文脈を借りていてもスポーツではなくアイドルだから出来ることのような気がする。

 

ただ、ダンシングミラージュのミューズにまでなってしまうのはちょっともったいない気がした。ノアさんが今回初登場だったしもう少し溜めてからミューズになるという展開のほうが自分好みだったかな~とは思う。

 

「絵」の持つ力を再確認させてくれる素晴らしい話数でした。

 

アイカツフレンズって本当におもしろい!

1番の「敵」は何だったのか? 『ご主人さまは山猫姫』感想

BookWalkerの電撃文庫の25%引きセールで以前から気になっていた『ご主人さまは山猫姫』全13巻を一気がしたわけだが、これがあまりにも面白すぎておよそ2週間で全巻読破してしまった。

あらすじとしては8世紀から12世紀ごろの中国をモデルとした架空の帝国「延喜帝国」を舞台に北方の国シムールの姫「ミーネ」とパッとしないがシムールの言葉を話すことができる青年「晴凛」の2人が延喜帝国の興亡に巻き込まれるというみんな大好き王道戦記物である。ちなみに、魔術の類は一切出てこないのでファンタジー的な要素が入るとちょっと……という方でも安心です。

丁寧でありながらテンポのいい物語の運び方やしっかりラブコメを入れてくれるところなどライトノベルの戦記物における教科書と言ってもいいくらい完成度が高いこの作品だが、1番面白いと思ったのは「敵」のあり方である。

1巻のラストから「尊皇討肝」の旗を掲げて摂政を裏から操る苑山燕鵬が敵の親玉として描かれるわけだが、9巻で南と北の両面から攻められて旗色が悪くなると同時に摂政である菰野盛元派のものに殺されてしまう。しかし、これによって帝国はさらなる混乱に陥り挙句には皇帝暗殺まで企ててしまう。

悪の親玉であったはずの苑山燕鵬が死んだはずなのに、帝国の崩壊が加速するというのは字面だけ見るとチグハグな気がする。では12巻で黒幕として帝国への影響力を保持し続けていた鵬儀天膳が親玉なのであろうか?

これも違うであろう。もちろん絶大な影響力を誇っているからこそ帝国再興では邪魔な存在ではあったが晴凛も伏龍も鵬儀を倒すのは目的ではなく手段であった。では、この作品で晴凛と伏龍は一体なにと戦い続けたのであろうか?

それは「組織」だったのではないかと思う。もっと言うなら「組織という枠組みそのもの」だろうか。人は群れを作って生きている。国家もその群れの1つである。国家という数百万人が群れを作るために軍、役人、民衆、皇帝が存在する。これが延喜帝国の大雑把な役割分担であったが同じ形態の組織が長いこと続けばそこには必ず派閥と利権が生まれる。作中では平和な時間が長かったので役人が大きな権力を持つことになってしまった。この役人の暴走によりシムールとの戦端が開かれることとなってしまう。晴凛と伏龍は皇帝の力を借りて組織の再編を行う。

また、北域国の立場は独立した緩衝地帯としてシムールでも延喜帝国にも属さない国となった。ここでシムールと延喜帝国の友和を説くのではなくある程度緊張感のある敵対関係を持ち続けることとしたのが「組織」という消耗品を少しでも長持ちさせる秘訣であるような気がする。組織が腐敗するのは著しくバランスを欠いてしまうことから生じる。策中では大きな戦乱がないために役人が力を持ちすぎてしまい、ろくに戦争の準備もできないところを北と南から攻められた。ならば、延喜帝国としてはシムールとの緊張関係を保ち続けることで軍部の発言力の低下をある程度抑えることができる。シムールとしては帝国を攻め滅ぼそうという過激派を押さえることができる。相容れない同士でありながらも平和を保つことはできなくはないという現実と理想をうまいバランスで配置した落としどころだったのではないかと思う。

月原弦斉は苑山燕鵬との権力争いを避けたことを己の罪として語った。錬涯塾の一人は組織にそぐわないやり方で税収を増やして閑職へと送られた。

この作品では帝国が「愚か者」として描かれる。しかし、決して「無能」とは描かれない。死の直前に派閥の問題をクリアした苑山燕鵬は非常に的確な指示を送っていたし、沢樹延銘の人を人とは思わぬ作戦も伏龍を苦しめた。

「バカとハサミは使いよう」という言葉があるが、ただ能力を持っているだけでは集団の中では不十分で人が人として生きていく以上は自分が力を発揮しやすい環境を見つけることが能力のあるなし以上に大切なのかもしれない。

晴凛は個人の能力としてはそこそこであるが、その根っからの善良さは人に力を発揮させる王としての資質に繋がっているのかもしれない。

 

国って何だろうという漠然とした疑問をもう一度思い出させてくれる、楽しいだけでなく素晴らしい物語でした。

鷹見一幸さんの海洋冒険モノを他の作品を読みながら待ってます。

アイカツフレンズ  16話「みお、勇者になる」 感想

ココロとココロが通じ合って女と女のあいだにビックバンが起こる第16話

 

「みお、勇者になる」というサブタイトルから、ついにアイカツシリーズで柿原優子の全力のギャグ回が見れるのか!と一縷の望みを持っていたが、あいねとみおがひたすらイチャイチャしながらドレスを作る最高の回だった。(柿原優子と言えば『月がきれい』ではなく『ジュエルペットサンシャイン』と『瀬戸の花嫁』と答える人間です)

 

特にBパートからの展開がすさまじく、たまきさんとケンさんを画面の外へと追いやって2人だけで山登りを始める。ここで、図鑑で覚えた知識をフル活用してあいねが興味をもった植物に対してガンガン答えていくみおにオジサンは涙が出そうになりました。

みおは図鑑が大好きだが、きっと今まで山道を歩いて実際の植物を見ることなんてなかったのだろう。もし、みおが1人で山に登ったとしても最短距離での登頂を目指して山の植物に目を向ける余裕もなかっただろう。みおが今回自分の知識を経験とすることができたのはあいねと出会ったからなんだよな~とか思ってたらマジで泣きそうになりました。

さらに、勇者の橋から飛び降りて「デザインに何が足りなかったの?」というあいねの問いかけに対してみおが顔を赤らめながら「あいねよ……」とか言いだした時は気持ち悪いオタクスマイルを浮かべるしかなかったよね!

2人で意見を出し合ってドレスを作っていくのだけど「ハニーキャット」とうまく差別化が図られていたのは「ハニーキャット」がお互いの意見をぶつけ合いながらドレスを作っていったのに対して、「ピュアパレット」の2人はみおの作ったデザインに対してあいねが「袖ならこの形が一番好き」などポジティブに意見を出していくのがとても『らしい』感じがしてよかった。

ケンさんの奮闘によって作成されたドレス作成動画もはたから見たらまったく伝わらないけれども2人の秘密という感じが最後の笑いあいで伝わってきてなんかもう最高だったよね。

次回は伝統のゴシック系キャラが殴り込みということでどんな立ち位置で1人で参戦してくるのか楽しみです。

ひそねとまそたん 感想

マジレス女、女子高生と日本を救うというダイナミックな展開にまで到達した良い作品でした。

岡田磨里はそこまで得意じゃないタイプの人間だけどもめちゃくちゃ面白かった。

「ここさけ」「さよ朝」「WIXXOS」など恋愛が中心じゃない岡田磨里なら楽しめていたので7話の「恋する王国」で、ついに恋愛が始まってしまうのか!という危機感を持っていたのだけど最高に楽しめたので杞憂でした。

CV新井里美の莉々子が最後まで恋愛から無縁のキャラとして描かれていたのも恋愛賛歌みたいにならない要因の一つとしてよかったです。やっぱり、生身の男よりも「キングダム」だよね!

終盤の展開でもう一人の主人公として活躍したジョアおばさんこと74年前のDパイ貞さんがこれまた最高だった。この物語はひそねの成長の物語であると同時に貞さんの74年越しのリベンジでもあるとしっかり感じられてよかった。特に最終話の「ここは我々Dパイの世界。危険のない場所から何を言われても実行できるのは我々のみ。物を言うならここまで上がってきていただきたい」のセリフはめちゃくちゃしびれた。

というか、最終回は本当に詰め込みまくり11話まではひそねの物語だったものが、いっきに「まつりごと」の楔女生贄問題を発端に貞さん、政府、楔女である棗と色んなものを巻き込んでスケールがめちゃくちゃでかくなっていくドライブ感は林トモアキを彷彿とさせるレベルで気持ちよかった。さらに、ひそねが生贄を捧げることに対して「何時何分何秒、地球が何回まわったとき?」とマジレスをぶっこむ姿が本当にカッコよかったし、棗に対する説得も「未来」に対する前向きな感情が溢れていて、ひそねの成長が感じられた。

若干、蚊帳の外だった名緒も自分の道を見つけたみたいで「乗れない人」なりの意地を見せてくれてよかったな~。

他にも星野さんの王道恋愛やノーマとの和解。ジャンピングスライディング土下座などいいところがいっぱいあった作品でした。

 

絵柄もOPもEDもキャラクターもヘンテコなものばかりで構成された唯一無二のアニメでした。ラストが少し雑な気がしないわけでもないのだけど、ここまでやってくれたならいいかなと許せることができるくらい、ひそねをはじめとするDパイの面々や小此木さん、棗ちゃん、貞さんなどみんな好きになれた自分の中では稀有な作品でした。

 

一番好きな岡田磨里作品になりました。

凄く面白かったです。

こみっくがーるず 感想

なんで、きらら枠で泣かされてんだよ!

 

「ボツマンガ先生」「かおっさん」などの愛称でニコニコ民から愛されていた、かおす先生があんなに頑張ってたらそりゃ泣いちゃうよという最終回でした。

 この作品は原作がそういうテイストなのかわからないが、とにかくギャグの切れ味が良かった。特に6話Aパートの怖浦先輩が登場する回は上田麗奈VS赤尾ひかるのどっから声出してるんだ決戦という感じでまったく忘れられない最高の回でした。

 10話ではBGM芸まで使ってきてギャグアニメとして本当に素晴らしかった。

 

 ただ、ギャグだけでなくかおす先生をはじめとする各キャラクターたちのドラマが単純にめちゃくちゃ面白かった。

 印象深いのは4話の爆乳💛姫子先生こと琉姫先輩がサイン会当日の朝にファンに失望されないように、どのような髪型にするか悩むシーンを1カットで約55秒に渡ってセリフなしで憂鬱な表情を映し続けたシーンだ。

 8話の大人回も最高だった!かおす先生の編集の編沢さんや担任の先生である美晴先生、寮母をつとめている莉々香さんの3人にスポットがあたるという変則的な回ではあるのだけど、夢破れた大人がそれでも悲観的にならずに今日を生きている感じがめちゃくちゃ良かった。特に編沢さんのかおす先生に対する熱い思いをそれでも本人には絶対に伝えないプロの編集者としての姿には目頭が熱くなってしまいました。

 そして、なんといっても最終回!翼、琉姫、小夢の3人は一足先に寮を出てしまい、かおす先生は一人で締め切りに立ち向かうという展開なのだけど突破口になるかおす先生の母親(CV能登麻美子)があんまり見たこと無い立ち位置ですごく良かった。実の娘がマンガ家になるのをすごく応援していて娘のことを「かおす先生」と呼んじゃう暖かい母親なのだけど、その温かさに飲み込まれずにマンガ家として生きていく決意を語るかおす先生を見たらこちらまで泣いてしまうのはしょうがないよね。

 

 いっつも泣いてたり、おびえてたり、女の子同士がいちゃついてるのを見ると拝み倒してお金を払おうとするけどマンガへの情熱を失わない薫子ちゃんこと、かおす先生が本当に大好きになれた忘れられない作品になりました。

 

 赤尾ひかるさんの「あばばばば!」がまたどこかで聴けることを願っています。

メガロボクス 感想

「前に五、後ろに五」この作品の中で繰り返されたこの言葉がこの作品の中核となるものだったと気づいたのが12話目だった。

 

あしたのジョー」のリブート作品ということと、キービジュアルからなにやらメカをつけて戦うらしい。という程度の情報しかもっていなかった自分としてはこの作品に対して期待は全くなかった。

まぁ、軽く様子だけ見ようかな?と思って見た1話はそこまで悪い物でもないかなぐらいの印象だった。そもそも主人公の名前が「ジャンクドック」でしかもアフロという「あしたのジョー」の要素が丹下段平ぽいセコンドのおっさんだけ。逆にどうやってあしたのジョーにつなげていくんだと気になることばかりだった。

自分がこの作品にのめり込むきっかけとなったのは3,4話だ。

3話の途中の展開でピーキーな試作機を使って新型をガンガン倒すみたいな展開を予想していたのに、最後はその試作機ギアも壊れてしまう。そして、生身のままでギアを使った敵を倒してしまう。それを見た贋作が「これだー!」と喜ぶ。この一連の展開で「その手があったか!」と膝から崩れ落ちてしまった。

そして4話で「ギアレスジョー」としての戦いが幕を開けた。4話がすごいと感じるのは恐怖の描き方だ。相手はギアをつけていてパンチ力がジョーよりも上である。しかし、ジョーはギアをつけていないので相手よりも多くパンチを入れなければ勝つことはできない。

そんな中で恐怖を覚えないわけもなくジョーは動きが若干鈍ってしまう。そして、ガードの上からだが強烈なパンチをもらってしまいダウンしてしまった。そこからはジョーの動きが精彩を欠いたものとなってしまう。この恐怖の描き方がとてもリアルであると同時にこの作品の主人公であるジョーは恐怖すら感じないスーパーヒーローではなく、ただの人間であることが示されているようでとても嬉しかった。

その後も南部の昔の教え子であるアラガキ、白都の後継者争いに敗れた白都樹生と素晴らしいエピソードが続いた。特にVS樹生は一度は不戦敗になるものの贋作ではなくジョーの活躍によって試合をする権利をゆき子から得た第8話はボクシングシーンがなくてもキャラクターの動きだけで充分に面白いと思える素晴らしい回だった。

そして、盛り上がりとしては最高潮を迎える10話、11話が始まった。

再びイカサマをやることとなったジョーは地下で使用していたぼろぼろのギアをつけてリングに臨む。それは「ギアレスジョー」としてではなく「ジャンクドック」としてリングに上がるという彼の意思表示だったのだろう。

そして、何回も繰り返し名シーンとしてゴールデンタイムの名作アニメべスト100みたいな特番で放送されたあの言葉が贋作から放たれる。

「立て、立つんだジョー

この言葉をきっかけにジョーは息を吹き返し、逆転勝利をつかみ取る。

「誰にもお前のあしたを奪わせはしねぇ」これはあのセリフの後に贋作が続けた言葉である。藤巻から刺さずにはいられない蠍と嘲られていた贋作はこのとき過去の自分と決別したのだろう。その結果として残っていた目を失うことになってしまったが。

このときに難しいのは藤巻である。彼は贋作を追い込んだが、目を差し出した贋作を手打ちにしたのも彼である。そして、贋作に対して最後に「笑わせるぜ」とまったく愉快ではなさそうにかみしめるようにつぶやいた。

浅はかな私見ではあるが、藤巻はほんの少しだけ贋作に対して嫉妬していたのではないだろうかと思った。藤巻は贋作に対して何度も「あんたの本性は蠍だ」と言い放つ。藤巻の動きをみていると単なるビジネスの一部として贋作やジョーを見ていたとは思えない。ただ、裏の世界の大物として振る舞う必要のある藤巻は贋作を贔屓するようなマネはできなかったのだろう。だから、目玉という代償を払った贋作を許したと同時に本性から解き放たれた贋作を羨ましく思った部分もあったのかもしれないと感じた。

12話ではユーリによる一体型ギアの剥離を「あしたのジョー」の力石の減量をほうふつとさせる演出で見せてくれた。ここまできてギアVS生身の構図を覆してきて勝敗を超えた部分のドラマに持っていくのかと体が震えた。そして、そのことによって「前に五、後ろに五」の意味に気づかされることとなった。この物語が到達しようとしているのは単純に勝利によって「あした」をつかむなんて次元ではなく、勝ちも負けも糧として「あした」を掴み取るというただ言葉にしただけでは陳腐なテーマを全力をこめて描こうとしていることに気づかされました。

そして、最終回13話では多くの時間を割いて決勝戦のその後が描かれる。

戦いそのものは魅力的であっても勝敗がほとんど意味を持たないこの展開では納得のいく時間の使い方であった。

そして、ジョーもユーリも幸福な「あした」をつかめていることがとてもうれしかった。

原作である「あしたのジョー」では力石は死んでしまい、ジョーも最後には真っ白に燃え尽きてしまう。原作では描かれなかった「あした」を描くというのもこの作品が単なるリメイクではなくリブートだからこそできたのだろう。

2018年に「あしたのジョー」をよみがえらせるという難題を見事に成し遂げた最高の作品でした。

「響け!ユーフォニアム」未視聴者の リズと青い鳥 感想

 京アニの限界までの繊細な作画と山田尚子監督の絵コンテが少女の気持ちを手と足で描き出す、比類なき傑作でした。

 

 自分は「響け!ユーフォニアム」を1期も2期も見てないクソ雑魚野郎なのですが、公式あらすじの「希美と過ごす毎日が幸せなみぞれと、一沿退部したが再び戻ってきた希美。

中学時代、ひとりぼっちだったみぞれに希美が声を掛けたときから、

みぞれにとって希美は世界そのものだった。

みぞれはいつかまた希美が自分の前から消えてしまうのではないか、という不安を拭えずにいた。」という情報だけで、全然大丈夫でした。というか、冒頭から忠犬のように希美を待つみぞれや、丁寧に下駄箱から上履きをとりだすみぞれと雑に上から落とす希美といった二人の性格が映画の中だけでかなり細かく描かれているのでこの映画だけでも性格が良く見えてきます。

 

・希美視点の「持たざる者」の物語

 友人と一緒に見に行ったのですが、感想を言いあっているとなんとなく話の追いかけ方が違う気がしていたのですがよくよく考えると自分は希美の視点で物語を追っていたからだと気づきました。

 自分が希美に肩入れしてしまったのは、新山先生に希美が「音大へ行こうと思っています」と言ったのに「応援してるわ」と軽くあしらわれてしまったシーンからです。

 あのシーンでコミュ力が高く、人望もフルートの技術もあって可愛い完璧女子高生と思われていた希美が演奏に関してはみぞれよりも劣っているとプロから評価されていることが示されてしまう。それから希美はなんとなくみぞれのことを避けてしまうようになるのですが、嫉妬というか自分が手を引いて導いてあげる存在のはずのみぞれが自分の手に負えない存在であることを認めたくない感じというのが伝わってきてすごく痛かったです。

 そこからの「リズと青い鳥」の再解釈から青い鳥としてのみぞれの演奏が始まるのですが、差し込まれる演奏についていけないフルートの希美が痛々しくて「櫻井さん演奏止めないの!」と心の中で絶叫してました。

 そして、理科室での大好きのハグで「希美のすべてが好き」と告白するみぞれに対して、「みぞれのオーボエが好き」とだけ返す希美があまりにも痛くて少しだけ泣いてしまいました。「みぞれのオーボエが好き」という一言には二つの意味があると思っていて、一つはみぞれへの承認というか鳥かごの鍵を開ける意味があったと思います。「みぞれがオーボエを続けていくことが私にとってもうれしいことなんだよ」と伝えることでみぞれが音大に行く後押しをしているのかなと思えました。二つ目は自分への言い聞かせとして「みぞれの才能を認めてあげよう」という思いがにじみ出ていた気がします。

 そして、最後は冒頭と同じように朝早くから学校に来る二人。みぞれは練習に希美は大学の試験に向けた勉強を図書室でする。二人は離れる時間が増えたけども前よりお互いを信頼することが出来るようになったかな?という幸せの予感を残して物語は幕を閉じる。

 

みぞれにとっては「恋」の物語、希美にとっては「才能」の物語。

実は最初から最後までお互いに違うところを向いていたけども、みぞれは希美が前のように見捨てないことを信頼できるようになり、希美は自分がみぞれにかなわないことを受け入れることでお互いに前よりも屈託なく笑いあえる関係になることができた。

私がこの映画にあまり百合的な要素を感じることがなかったのは希美の視点から見ると、みぞれに対して友情以上の特別な思いというのを見出すことができなかったからなのかな~と思う。

 

 もし、2人の関係性の続きを書いてくださいというお題が出たらみぞれが希美に対して失恋しながらも恋ではなく愛を学んでいく。みたいな悲しい結末しか思い浮かべることができないので、みぞれちゃんを幸せにできなくてつらい。

 

 あとは剣崎後輩がすっごくかわいい!とか、水着をキングクリムゾンするのは作風的に理解できるがやっぱり見たかった!とかくだらないこともいっぱいあるのですが、ここまでにしておきます。

 

 魂に刻み込みこまれた作品になりました。